珈琲とやきもの
群馬県:野想窯 田島健太郎
“手仕事の「やきもの」から作られたうつわ” は、使い続けるほどに手に馴染み、味わいが増していきます。 珈琲時間に寄り添い、より豊かにするパートナーとなってくれるでしょう。
今回は群馬県高崎市の榛名山麓にある「野想窯(やそうがま)田島健太郎氏(たじま けんたろう 以下:田島さん)」の工房を訪ねました。野想窯では、大和屋のコーヒー豆を焙煎した際に出る灰(以下:大和灰)を釉薬の材料として使っています。
今回のdeepressoでは、この大和灰を使ったうつわの特徴や、田島さんのうつわ作りへの想いなどをご紹介いたします。
目次 きっかけ 野想窯という名前の由来 灰から釉薬へ 大和灰のうつわの特徴 田島さんのうつわづくり 取手 模様 平井敦・田島健太郎 二人展
きっかけ
野想窯で大和灰を釉薬(※)として使うようになったのは、クラフトフェアというイベントでの出会いがきっかけでした。
田島さん「もともと、梅や桑の灰釉を使ったやきものを作っていたので、それなら、コーヒーを焼いた時に出る灰でやってみたらどうかな?と話したのがきっかけだったと思います。」
と、当時を振り返ってくれました。
※釉薬(ゆうやく):やきものの表面を覆っているガラス質部分のこと。植物の灰から作られる釉薬は「灰釉(かいゆう)」と呼ばれています。
野想窯という名前の由来
野想窯で作品に使う釉薬の多くは、工房近くの梅や桑の木の灰など、様々な草木の枝葉を丁寧に手作りで原料にしています。植物が大地から吸い上げた鉄分などは、微妙な色の変化を生み出します。それらの野生にある自然を活かした作品を作りたいということで、「野」を「想う」「窯」ということで「野想窯」と名付けたそうです。
灰から釉薬へ
大和屋のコーヒー焙煎工場から届けられた大和灰は、木炭の燃えかすを取り除くため、まずはふるいにかけられます。その後、灰に含まれる灰汁を抜くため、水洗いが行なわれます。不純物が入っていない大量の灰がこんなにも、もらえることはないので貴重なのだそうです。
灰を水につけ、時間を置くことで沈澱させ、上水の透き通った部分のみを取り替えて…という工程を繰り返します。この工程だけでも、10回ほど水を替えるそうです。
灰汁が程良く抜けてきたら次の工程として、細かい網を使って濾していきます。水を替えながら80メッシュの網から、100メッシュの網へ…そして120メッシュの網へと段々細かくしていきます。灰釉として使える状態になるまでおよそ1〜2ヶ月かかるそうです。
手間暇をかけ丁寧な工程を経て作られた大和灰の灰釉は、長石(ちょうせき)や陶石(とうせき)などと合わせられ釉薬として使われます。
コーヒーを焙煎した際にでる灰がこのように、新たな素材として生まれ変わっていると思うと、とても感慨深いものがあります。
大和灰のうつわの特徴
大和灰を釉薬として使ったうつわの特徴をお伺いしました。
田島さん「大和灰で作った釉薬を使ったうつわは、コーヒーの色が合う深みのある緑色が特徴です。大和灰のカップは土味を生かして、温かみがあるようにしています。焼くときの温度によっても変わりますが、織部焼(おりべやき)の鮮やかなグリーンとはまた違い、少し白っぽい色が出るのも大和灰で作ったやきもののいいところです。大和灰は鉄が含まれているので緑っぽくなりますが、藁灰が入ると白濁し、楓灰だと紫っぽくなります。」
と、原料になる木の種類により作り出される風合いの違いも見せてくれました。
一口に植物の灰と言っても、木の種類によってこんなにも変わるのだなと驚きました。
田島さんのうつわづくり
田島さんの作陶は、ロクロを回して形を作っていきます。その前の工程として、土練と呼ばれる、粘土のかたまりを練ってやわらかくして、使いやすくする工程があります。硬く、冷たい粘土の塊をやわらかくしていくには、手間と時間がとてもかかります。
取材当日、ロクロを使った製作工程を見せて頂きたい、とお願いしていたのですが、すぐ見せられるようにと、時間のかかる土練の工程を終わらせていてくれました。その田島さんの優しさにも、感激しました!
「うつわは“見込み”が大事」と田島さん
見込みとはうつわの内側部分を指します。
田島さん「人は飲み物を飲む時、内側を見ている時間が長いですよね。また外側の形と、内側の形が違うと騙された気がします。底まで入ると思ったら、入らない…というように、使い勝手の悪さにも繋がります。」
後ほど、大和灰のカップでコーヒーを頂いたのですが、見込みが大事という意味を改めて感じました。
滑らかで艶やかなカップの見込み部分が目に入り飲んでいてとても心地がいいです。飲み終わりのコーヒーを見ると琥珀のようにとても綺麗な色をしていました。
取手
手に馴染む取手部分。作る際に気をつけていることを伺いました。
田島さん「取手は角が立つと痛いので、気を使っています。“水挽き”(みずひき・みずびき)」と呼ばれる民藝の伝統的な手法で用いています。」
取手に使う粘土はビー玉1個より、少し大きいくらいの大きさです。取手は持ちやすいことはもちろんのこと、なるべく軽くするために使う量は少しなのだと言います。
小さな粘土の塊が、田島さんの手によりどんどん変わっていきます。出来上がった取手部分を見るととても薄く、そして滑らかなのが伝わります。
田島さん「取手の部分は、薄くても幅が広いと持ちやすいです。両脇は厚みがあって、真ん中は薄い。そうすることで軽くて、太くて、丈夫な取手となります。カッターで切っただけだと、なかなかこういう感じにはなりません。また、真ん中が少し凹んでいるので、釉薬を塗ると真ん中は青くなり、色合いの変化も出やすいです。」
大和灰のカップの取手部分に、ちょこんと可愛らしく付いているコーヒー豆も、快く作ってくださいました。
田島さん「小さい粘土を丸くしたものに、少し筋を入れて、丸くキュッキュとよせます。柔らかく形を作ったら、持った時に触れる親指が持ちやすいように軽くつぶしています。そして、コーヒー豆のところだけ、釉薬がかからないように撥水剤を塗っています。そうすることで素焼きの状態になり土本来の色合いになります。」
持った時に自然とコーヒー豆に親指が触れ、その感触がなんとも言えない安心感を与えてくれます。また、土色がそのまま表現されることにより、よりコーヒー豆らしくそして温かみを感じます。
模様
最後にうつわに描かれている模様は、どのようなに決めているのかお伺いしました。
田島さん「1/4の同心円を繰り返しているのですが、くるんと行かないで、逆側に行っちゃったり…パターンはありますが、一個一個違っていて、そこら辺は楽しいようにやっています。子供の頃から、天井にある模様をみていたら何時間も経っていたっていうことがあって。そういう感覚ですかね。」
一つ一つのうつわを見ると、どれも同じものはありません。唯一無二なのも、職人の方々の手によって作られる、やきもののいいところだな、と再度感じます。
最後に・・・
今回は群馬県にある窯元「野想窯・田島健太郎さん」にお話を伺いしました。作り手の方の想いやこだわりを知ると、ひと味もふた味も違った楽しみ方ができるかもしれません。
大和屋高崎本店では田島さんの作品展が開催予定です。カップを実際に手に取って、その味わいを感じて頂ければと思います。ご来場をお待ちしています。
平井敦・田島健太郎 二人展
大和屋高崎本店、陶芸館2階にて陶器の田島健太郎さん・木漆作家の平井敦さんによる二人展が開催されます。
食器類を中心とした陶磁器とカップ・テーブル・椅子等の木漆作品を展示販売いたします。お二人の温もり溢れる作品をどうぞ会場でご覧ください。
会 期:2022年4月8日(金)〜4月12日(火)
出展者:田島健太郎(陶磁器)・平井敦(木漆)
時 間:9:30〜18:30
場 所:大和屋高崎本店 陶芸館2階
〒370-0075
群馬県高崎市筑縄町66-22
H P:野想窯・榛名山麓陶芸工房