プロフェッショナル対談
ブラジルを語る(後編)
コーヒー生豆専門商社のワタル株式会社 松元さんへのインタビュー記事、後編です。
2050年問題、個性的な精選方法と生産国らしさなど…
最前線でコーヒーに携わる松元さんだからこそ聞けるお話をご紹介します。
前編はこちらから
https://deepresso.yamato-ya.jp/2021/11/2282/

2050年問題について
-「2050年問題」という形で、少子高齢化や環境問題…技術革新に伴うことなど問題視されていますが、ブラジルでも問題視されていますか?
問題視されています。
「人にも環境にも優しく。」という意識はあります。しかし、アマゾンの森林伐採は止めようとしても、止められていません。
コーヒーの植えられる面積も減ってきているのは事実で、どんどん上(標高が高い方)に行ってしまうという懸念点もあります。循環がうまくいかないと、あらゆるところに影響が出てきてしまうと考えています。
美味しいものを作ること、地球温暖化のこと、両局面を考えていかなければいけないという責務を持っています。
-日本では高齢化や食料自給率の低下など・・・様々な問題があり農業人口が減っていることが問題になっていますが、ブラジルでのコーヒーの担い手はどうでしょうか?
ブラジルでのコーヒー農園の人口はまだまだ多いです。コーヒーの研究機関の中心もブラジルにあったりと、一大生産国というプライドを感じます。
昔と比べると、機械の導入などもありコーヒーを作る作業効率自体は上がっているので、そういった面での人の削減はあるかもしれませんが、「ブラジルのコーヒーを今後もつくっていかなければいけない。」という使命感もあると思います。
個性的な精選方法と生産国らしさ
-昨今アナエロビック(※)という個性的な精選方法で、今までになかったような味わいのコーヒーも出てきていますが、そのことで生産国らしさ…国によっての特徴などはなくなったりすると思いますか?
世界最高峰のコーヒーの大会ワールドブリュワーズで勝てるようなコーヒーを作ることを目的に、「個性的なコーヒー、今までになかった味わいを持つコーヒーを作る。」ということが注目されてきました。アナエロビックなど、個性的なものはメインになることはありません。数あるコーヒーのなかでやっている、ごくごく一部に過ぎません。
例えば…本来ウォッシュドという精選方法が主流の国に、ナチュラルと呼ばれる精選方法のコーヒーを作ってもらった場合、全て販売できないとコーヒー全体の価格に響いてしまいます。生産者側も、業者側も必ず売り切りたいので、特殊なものは商社などを通しての予約注文が多くなります。ブラジルのアナエロビックは特殊なものになるので、メインになることはない。というわけです。
※アナエロビック
正式名称は、アナエロビック・ファーメンテーション。コーヒーを作る上での精選過程の中でも、発酵工程だけを指します。日本語に訳すと「嫌気性発酵」という意味になり、空気(酵素)を必要としない状態で活動する微生物の働きによって発酵させるという意味を持っています。嫌気性の微生物のみで発酵が進むため、今までになかった独特なフレーバーが生み出されます。
最後に…
-最後に松元さんにとってブラジルの魅力、コーヒーへの思いなどを聴かせてください。
コーヒーに携わっている人は、まず初めにブラジルに行って欲しいと思うくらい、重要な国だと思っています。コーヒー畑での生活、コーヒー農家の方の生活…コーヒーができるまでには色々な人が関わっていて、たくさんのことに出会えて、とても魅力的な国です。また、移民が多いので、多様性があり、寛容に感じます。
コーヒーは、普段から1日に9杯ほど自分で淹れて、色々な生産国のものを飲んでいるくらい好きです。
私自身、コーヒーのカッピング(コーヒーの風味を総合的に評価・判断すること)を行い、コーヒーの評価をしていますが、味がいい。悪い・・・そういった評価だけでなく、「バックにあるストーリーや、物事の移ろいなどの価値」もコーヒーを選ぶ時、飲むときの判断材料として伝えていきたいと思っています。
味や表面的な価値だけじゃない、そういうことも伝えていくことが、私たちコーヒーを扱うものの使命だと思っています。
インタビューを終えて
コーヒーのサードウェーブと言われるこの時代。
どこに行っても高品質で美味しいコーヒーが飲めるようになったと感じています。カップテスターとしてコーヒー品質の味覚的な検査を行なっている松元さんから
「味などの表面的な価値だけじゃなくバックにあるストーリーを伝えてくことも、コーヒーを扱うものの使命」
この言葉は今回取材をさせていただいた中でも、特に心に響くものがありました。コーヒーに携わるものとして、deepressoを通じ広く伝えていきたいと感じています。