プロフェッショナル対談
ブラジルを語る (前編)

コーヒーのプロフェッショナル
ワタル株式会社
松元 啓太氏に聞く
ブラジルのコーヒー

コーヒーの一大生産国ブラジルについて、より深く知るため生豆専門商社ワタル株式会社の松元啓太(マツモト ケイタ)さんに取材協力をいただきました。

松元さんは、大和屋 代表取締役である平湯 聡(ヒラユ サトシ 以下:平湯社長)の若かりし頃、修行時代にグアテマラでの生活を支え、共にした旧知の中。平湯社長より「ブラジルのことならば、Keita Matsumotoに聞け!」とのことで今回は特別にお時間をいただきました。

コーヒーの一大生産国であるブラジルでのコーヒーの扱われ方、経済との繋がりやコーヒーの飲み方など…。コーヒーの最前線を見てきた松元さんだからこそ、語れる貴重なお話を伺うことができました。

deepresso編集部が行った、松元さんへのインタビューをお楽しみください。

(左)ワタル株式会社 松元 啓太 (右)株式会社大和屋 平湯 聡

松元 啓太氏 プロフィール

ワタル株式会社 コーヒー部 次長
松元 啓太(マツモト ケイタ)

<保有資格>
STAR CUPPER
CQI認定Qグレーダー
SCAA認定カッピングジャッジ

プロローグ
平湯社長から見た松元さん

-本題に入る前に…
平湯社長に質問です。松元さんと出会った当時のお話や、印象的なエピソードなどあれば教えてください。第一印象も覚えていたら、お願いします。

松元さんとの出会いは、私がまだ若い時グアテマラに研修に行った際に、当時駐在員として現地にいた松元さんにアテンドしてもらったのが始まりです。

松元さんから「アンティグア」「ウエウエテナンゴ」「コバン」という3箇所の産地を紹介してもらい、そこで住み込みで研修をしてました。松元さんも仕事があったので、常に一緒にいるという訳ではなかったですが、10ヶ月間のグアテマラ生活では大変お世話になりましたね。

第一印象は…「現地に馴染んでいるなぁ…まるで現地の人みたい。」というのは覚えています。海外駐在歴が長すぎて日本語よりもスペイン語やポルトガル語の方が堪能なのではないか?と、今でも思ってます。笑

私が日本に帰ってきてからは、ちょうどワタルさんの営業担当の方が定年退職で辞めるタイミングも重なり、松元さんが営業担当になったんです。今から10年…もっと前かもしれないですが、振り返ると長い付き合いになりますね。

ひとつ小ネタを話すとすれば、私も松元さんもコーヒーを本業としてしてますが、実はビールもコーヒーと同じくらい好きということ。コロナ禍以前は、機会があればビールをよく一緒に飲んでいましたね!そんな感じで今も関係が続いてます。

インドネシアに豆の買い付けに行ったときの一コマ

-ありがとうございます!
お二人の仲が知れるお話を聞けたので、そろそろ松元さんへ本題のインタビューに入りたいと思います。


ブラジルでの“コーヒー”
消費量と景気の連動


-まず初めにコーヒーの一大生産国であるブラジルで、コーヒーはどのような位置付けなのでしょうか?日本ではコーヒーというと輸入品と扱われていますが、生産国・輸出国での扱われ方が気になります。

ブラジルにとってコーヒーは、輸出して換金できる重要な商品作物という位置付けにあたると思います。

コーヒーは、緑色をした生豆と言われる状態になるまでに、収穫、精選、選別…と多くの工程を経て商品となります。

基本的に、ブラジルのコーヒーは「輸出用」と「国内用」に分かれており、選別された品質の良いものが「輸出用」として扱われています。ブラジル国内で飲まれているものは、一般的に2級品にあたるものを飲んでいます。

ちなみに面白いのが、ブラジル国内のコーヒーの消費量とブラジルの景気が連動しているところです。

1965年1人あたりのコーヒーの年間消費量は4.8kg
1985年は2.2kg…と激減。
1980年代のブラジルは経済が停滞したことから「失われた10年」と言われています。
2010年4.8kg
この時は、世界的な景気後退がありましたがブラジルはいち早く立ち上がり、その後も順調な回復をしていました。
2020年5.9kg

1965年と2010年は同じく4.8kgとなっていますが、コーヒーの品質は2010年の方が格段に良くなっています。

ちなみに日本の一人あたりの年間消費量は3.5kg程度なので、ブラジルの消費量が多いことがわかります。

(※)参考資料:
   ブラジル 一人あたりのコーヒーの年間消費量

年代kg要因
1965年4.8kg
1985年2.2kgブラジル経済停滞
2010年4.8kg新興国の景気後退からの回復
2020年5.9kg

広がりつつある地産地消

ブラジルで他の国のコーヒーを飲むことはあるのでしょうか?

一部の所得の高いコーヒー愛好家の方が、他国のものを好んで飲んでいる印象はありますが、基本的には自国(ブラジル)のコーヒーを飲んでいます。地産地消の考え方も広がってきており、そうすることで輸送などの中間コストがかからないため、自国の経済を良好にする目的もあります。

最近では日本で飲んでいるレベル(高いレベルのコーヒー)が飲める店も出てきています。景気とともに人々の消費動向の変化もあり、コーヒーも良いものを飲もうという考え方が増えています。

「ブラジル」だから根付いた飲み方

コーヒーはどのようにして飲むことが多いですか?

ブラジルではカフェジーニョという飲み方が主流です。深煎りのコーヒーを濃いめに淹れて、砂糖をたくさん入れます。ブラジルのコーヒーは基本深煎りなのですが、2級品の豆…すなわち低品質だったりネガティブな印象を持っている豆が入っていることも多いので、それを打ち消すためにも深く焙煎しているとも言われています。

暑いブラジルの気候には、カフェジーニョの甘いコーヒーが妙に合いますね。笑

結構前のことですが、ブラジルの5つ星ホテルに泊まることがありまして。その時に飲んだコーヒーにもリオ臭がありました。リオ臭というのは、塩素系の味がする欠点豆と言われるもので、ブラジルの「リオデジャネイロ」からとったブラジルならではの表現です。5つ星ホテルに入っている高級レストランでも、そういったコーヒーが主流になっているんだな…と、記憶に残っています。


現地での食事・コーヒーについて

-松元さんはブラジルに行った時、食事面はどうしているんですか?

ブラジルの食事はどれでも美味しく、はずれがありません。主に肉食の食文化で肉料理ばかり食べてしまうので、出張に行くと太って帰ってきてしまいます。笑

「フェジョアーダ」という豚肉と黒豆のシチューのような庶民的な料理があるのですが、それが好きでご飯にかけて食べます。街中には、ポルキロという計り売りの定食屋さんがあり、サラダや肉料理、魚料理にご飯に、デザートまで…好きなものが好きなだけ食べれるので、そこにもよく行きます。

コーヒーについては、現地のコーヒーに従事している人はワールドスタンダード(ちょっといいやつ)を飲んでいるのですが、私も2級品のものではなくそちらを飲んでいます。最近だと、ブラジルのバイーアという地区のコーヒーが好きです。

-バイーアという地区はあまり聞きいたことがないのですが、どういったところなんでしょうか?

ブラジルの北部に位置するバイーア州という地区は元々イチゴやマンゴー、牛などを育てていたのですが、1975年あたりにあった霜害を機に、コーヒー栽培が入ってきました。ブラジルの中でも新しいコーヒーの産地になります。

1,200〜1,400mくらいの岩山の険しい山間にコーヒーが植えてあり、また小規模な経営だったため、なかなか注目されず、2000年頃にようやくバイーアのコーヒーにスポットが当てられました。

酸が明るく、フルーティーな印象のあるコーヒーで、サードウェーブの最近のコーヒーブームの中で好んで飲まれるようになりました。

後編へ続く


後編では、環境問題や個性的な精選方法についてなど…ブラジルについて、コーヒーについて、ますます深く、濃いお話をお伺いしました。

どうぞお楽しみに。

 

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deepresso編集部が「より深くコーヒーの魅力についての情報発信」を行います。コーヒー業界のトレンドや、最新のトピックも取り入れながら、大和屋が今まで培ってきたコーヒーのノウハウを活かし、一歩踏み込んだ情報をコーヒー好きの皆様にお届けします。

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